今週のアクタージュは大人の思惑と若者の気持ちの交錯でした
こんばんは、花粉の薬の影響か、気がついたら寝落ちして腰が痛い田中聖斗です。
皆さんいかがお過ごしでしょうか?
※20.1.7 引用を適正な量にて内容も若干修正しました
(以下ネタバレ)
scene.63 良い話
前回、新宿でのゲリラ撮影を敢行した夜凪たち。
監督 黒山墨字のもくろみ通り、世界の、まずプロたちが注目します。
これで、夜凪景の名前が一気に世界に知れ渡ります。
ちなみに、このMVの演奏をしたミュージックグループは、メジャーデビューにさして興味がないようで、この件についての取材はウンザリしているんだという感じ。
メジャーデビューに興味がないのにMVを作るのか? とも思いましたが、その人によると「音源を提供しただけ」という発言をしていたので、「依頼があって」というのは夜凪をだますための黒山の方便だったのでしょうか??
そして、そんな、ゲリラ作戦に大いに盛り上がっている世間にウンザリしている人がもう一人。
謎の敏腕プロデューサー、天知です。
プロデューサーというと、昔よりはだいぶよくなったと思うけど、一般の人からすると何やっているかわからないうさんくさい人物として描かれる事が多いですが、今回は、あえてなのかわかりませんが、その天知がベタなプロデューサー(ベタP←勝手に命名)として暗躍する回です。
最初のターゲットは、夜凪と共演したばかりの天才俳優 明神阿良也(みょうじんあらや)。
黒山や巌をやり玉に挙げ、堂々と
「こちらが大金とコネクションを使って積み上げてきたものを一瞬で追い抜いてゆく」
と言ってのけますが、これを少年誌で吐かせるのは、完全に読者にとって「わかりやすい悪役」にしている演出なのでしょう。
しかし、大人になるとわかりますが、大金とコネクションを使うようになるまでも相当大変なので、こういったギミックを入れながら、同時にそういったプロとしての自負というか矜持というものが感じさせます。
大金やコネのどこが悪いんじゃと。それで作れる名作もあるじゃろと(なぜか千鳥 大悟風)。
ただ、そういう本音もあるのでしょうが、天知にとってはそれも役者をうまく使うための方便でしかありません。
阿良也に対して、阿良也にとって大事な存在だった、演出家の故 巌裕次郎を引き合いに出し、「商業演劇を子供(阿良也たち)の親離れに使う始末」などと言って、阿良也を挑発。
阿良也はもちろんそんなことはわかっているけど、「巌裕次郎」という看板がなくなった今、天知の話に乗らざるを得ないことを意識しているから、天知の話に乗ります。
ここで、阿良也も天知に対して、
「挑発っていうのは嘘吐き(うそつき)のやること あんたには向いてない」と指摘。
これは恐らく読者への伏線なんでしょう、完全な悪人じゃなくて、彼なりの理由があってしていることなんだということを後で見せるための。
この辺をすっ飛ばして描く人もいますが、そういうのは、後で別人のようにキャラが変わるなど、ブレまくった展開になる作品でよく見かける(結果つまらなくなったり打ち切りになったりする)だけに、この一コマが、何か、このシリーズのポイントになるのかもしれません。
ウソつき=悪人、なのかと。
なにせ、演劇の世界は基本、ウソでできてますからね。
逆に言うと、天知ほど本音で生きている人もいないんじゃないかと。
そして、本音だから人を動かす、というような話になっていくのかなと思いますが。
この辺、黒山や巌のような、一般の職業からかなりかけ離れた、芸術に命を捧げたような生き方をしている人とは正反対である天知の存在は、異質に感じるかもしれませんが、非常に大事なキャラクターだと思います。
熱しやすく冷めやすい残酷な一般人の代表みたいな?
売れる時に散々価値を高め、売れなくなるとサヨウナラ、という感じです。
そして今回、芸術に命を捧げることを良しとしない人がもう一人登場します。
芸術に命を捧げようとして結果潰れたがために、自分で「役者が幸せになれる」会社を自分で立ち上げた、元 女優で芸能事務所社長の星アリサです。
星アリサは、事務所の看板女優で、「天使」の百城千世子に、突然衝撃的なことを聞かれます。
「私の消費期限って 後どのくらい?」
人々にどうやって見られるか俯瞰する力が強く、意図的に人々の心を魅了し続ける(もちろんそのための努力もしている)、若手トップ女優 千世子。
しかしそれだけに、自分というものが「消費」されることを自覚しており、そのことを、社長がどう考えているかを問います。
「虚像の寿命は生モノより短いんだから」
AKB48の指原莉乃が圧倒的人気を誇るのは、虚像ではなく、恋愛関係で失敗をやらかしたり、変にブリッコすることもなく下ネタOKで、強い芯から来る鋭いツッコミを見せたり、そういった「人間的な魅力」があるからです。
ですが、千世子の場合はまったくその逆。
歌って踊れるアイドルではなくてあくまでも女優ではありますが、とにかく主演を張り続けるという意味で、いわば「キムタクは何をやってもキムタク」みたいな状態になるのも事実。
それは、芸能界という世界の中での、「天使」として作られた虚像ゆえ。
最初はウソをついてはぐらかそうとしますが、真剣な千世子に対して、アリサは正直に答えます。
「後2年もせずに終わる」
「なぜならあなたは天使じゃないから」
なかなかえげつないことを言う星アリサ。
でも、それが偽らざる本音なのでしょう。
理想を追い、役者として再起不能になった自分のような「不幸な人」を作らないために、事務所のゴリ押しと言われようがなんだろうが、役者の幸せを思って今日までやってきたわけです。
太く短くではないですが、それでも役者の「闇」に落ちるよりも、スポットライトを浴びながら美しく生きて(そして消えていく)ことが幸せなのだと思っているのかもしれません。
しかし、そんなアリサに対して、千世子はこれまで見せなかった表情を見せます。
夜凪の話題のMVを見て、感じたことを率直に、アリサに伝えながら。
これまで、瞳の色がない、いわば作られた表情をしてきた(近大マグロ的な)最高にレベルを高めた養殖女優 千世子が見せる、天然素材 夜凪に対しての、悔しさ、憂い、羨望、敗北感・・・いろんな感情が入り交じった、今までになかった人間らしい瞳を見せる千世子。
まさかこれまで千世子の演技と言うことはないだろうが、元女優であったアリサは、千世子の気持ちが痛いほどわかる。
だからこそまた、苦しい気持ちにもなるのです。
「その先」は行ってはいけない、と。
そのために私(アリサ)はそうならないために、時には自分の息子を軽んじても、心を鬼にして、これまでやって来たのだ。
会社にとっては「商品」ではあるけれど、役者に「不幸になってほしくない」と考えて生きているアリサにとっては、これまでと同様、役者に「正しい道を歩かせる」ことしかできません。
もう、親の発想ですね。
しかし、子どもは親の思うとおりには生きません。
親が、「それはダメ」と思っていても、それを言えば言うほど、その道に行ってしまうものです。
「あんな男とは別れなさい」と無理矢理引きはがそうとしたら駆け落ちをしてしまったとか、危険な道を選ぶのが若者です。
千世子も、親(アリサ)が、「その人は絶対ダメよ!」という危険な男と手を組む事を決めます。
「私は主人公であり続けなければいけないの」
「そのためだったら悪魔とだって組むよ」
役者にとっての「悪魔」になるかもしれない天知。
それでも、今のままでは天然素材にやられるし、消費者に食い物にされて終わり。それくらいなら、それに抵抗したいと考えたわけです。
千世子の、一人の十代の少女としての瞳がそれを語ります。
変えられる未来があるハズで、自分は悪魔と手を結んでも、それをしたいと。
そして千世子は、積年思っていた、1つの想いをアリサにぶつけます。
夜凪だけじゃなく、アリサすらも超えていくという決意。
しかし、それこそが、最もアリサが危惧していることです。アリサの目に人間らしい迷いが生まれます。
破滅への道しかないのに、それを選択する決意を持ってしまっている千世子。自分のやって来たことが逆に千世子を追い詰めることになったのかと、今後自分を責めることになるかもしれないアリサ。
千世子の瞳が、再び、色んな感情を含む「人間としての目」じゃなくなっていることがおそらく注目ポイントです。
千世子が、天使 百城千世子として、人展的な表情ではなく、天使として活躍し続けるなんて不可能。
おそらく、千世子自身もそんなことわかっている。
でも、このまま、時代の消費財となり消えていくつもりもないけど、もし消えるのだとしても、記憶に残る大女優として燃え尽きたい。
だから、「そのためだったら 悪魔とだって組むよ」になる。
ちょうど、甲子園で燃え尽きてもいいという高校球児や、山王戦で燃え尽きてもいいと思っている桜木花道と同じような感覚です。
そう、それが若者ですから! 少年ジャンプですから!
そして物語は、新章「ダブルキャスト」編に突入します。
夜凪とのダブルキャスト、千世子の人気を自分のモノにしようとする阿良也との共演という環境で、夜凪に圧倒的に勝つ。
そして、天知は天知で、これは間違いなく「売れる」=役者や事務所や消費者を幸せにすることだと説く。
一見そうは見えませんが、完全に少年誌的なバトル展開です。
強敵がさらに悪魔と手を結んで強くなった的な。そして悪魔に心を奪われた敵を救っていく・・・・なんかそれって、ジャンプに連載中の『』みたいですが、実際はどうなっていくのか?
毎回夜凪に助けられるワケにもいかない千世子や阿良也は、先輩俳優として、どうやって夜凪を導くのか? そういう展開もあるのか?
今回は合併号でしたので、次回は5/13までおあずけです!
(出典:週刊少年ジャンプ2019年22・23合併号 『アクタージュ』scene63:良い話)