青春だけじゃない!ジェンダーを問う『青のフラッグ』
『ジャンプ+』アプリ上で無料※で読める連載マンガ、『青のフラッグ』。
※最新3話分です。
週刊少年ジャンプ(本誌)で、『バディストライク』という、高校野球をテーマにした(そして速攻で打ち切られた)作者 KAITO氏による、これまた高校をテーマとした、青春物語です。
ただ、この、『青のフラッグ』は、単なる青春ラブコメとか、スポ根とか、そういうのではなくて、
なんというか、
とても、
もどかしいような、
でもわかるような、
それでもほっこりするような、
だけど、
若者たちの「精一杯」が伝わってくるような。
そんな作品。
ありそうだけど、ないような、
なさそうだけど、ありそうな。
でも、この作品に出てくるキャラたちがそれぞれ、「必死に生きてるなぁ」って感じがして、とても好感が持てます。
そういうこともあって、『第3回次にくるマンガ大賞Webマンガ部門』で3位入賞をしたのだと思いますし、打ち切りなどされず、隔週から月刊になっても回を重ねているのだと思いますが。
ちなみに現在6巻まで出ています。
(以下、若干ネタバレあり)
さて、そんな『青のフラッグ』第43話。
ついに主人公 一ノ瀬太一のことが好きだと告白した、身長189cmの野球部のキャプテンで、みんなの人気者三田桃真(トーマ)。
トーマは、幼なじみである太一のことが好きだった(両方とも男です)という伏線はずっとあったのですが、ついに他の人にまでカミングアウトしたことで、物語が大きく動き出します。
※ちなみにこの作品はBLではなく、健全な高校生の恋の葛藤を描くお話です(なので、女が女を好きな子 伊達も登場します)。
舞台は学園祭で、トーマは仲の良い友だちグループの紅一点(古い表現だけど意図的に設定してあるはずだから使うよ!)、八木原マミから告白されます。
マミは、同じ友だちグループの増尾健助から、猛烈アプローチされているのですが、マミとしては友だちでいい相手で、そもそも自分は女として見られてしまうのがイヤで、男女の友情があってもいい派。というか、そうしてほしい派。
そんなマミが好きなのは、猛烈アプローチをかけてきたトーマ。そして(改めて)告白したところで、トーマはまさかのカミングアウト!
自分が好きなのは・・・
これを見ていた健助がキレてトーマとケンカになって、結果的にトーマのカミングアウトが学校中に知れ渡ってしまうという、非常に切ない展開。

『青のフラッグ』41話
ついでにといっちゃなんだけど、太一の彼女 空勢二葉が、「BLの邪魔じゃない?」的な感じで、実に軽い感じで言っちゃう無責任な人たちのことも描くのがこの作品のリアルなところ(バディストライクになかったところだよね)。

『青のフラッグ』42話
昔は男と男なんて「気持ち悪い」と言われていた気もするけど、今は、そういう想いと同時に「受け入れる」フリをして結果楽しんでる人もいるという、ある部分での残酷さを見ているような気がします。
それに対しては、これまたそういうことを快く思わないキャラクターに言わせることで、様々な考えや意見を一つの作品の中に内包しています。

『青のフラッグ』43話 二葉のことが好きな、伊達真澄の名言
青春と言えば青春なんですが、この、もどかしい葛藤の中で、みんな精一杯考えて生きている感じが、この作品の良いところです。
説教臭くなく、それぞれのキャラに「幸せになってほしい」という気持ちになります。
しかし、トーマと真澄、二人の同性愛者は、それぞれ、太一と二葉というすでにカップルになっている人をそれぞれ好きなのです。
この、どうやっても 報われない感。
これが、この『青のフラッグ』の根底にあるテーマです。その中で彼らが、人としてどう成長し、どう幸せになっていくのか・・・そしてそれが、タイトルに込められた意味なんでしょう。
そして、報われない恋だとわかりながらも、自分の想いをカミングアウトして停学になったトーマは、公園で、太一に自分の想いを初めて告げます(41話)。
しかし、
このシーンがまぁ、切ない。
もう、せつなすぎる!!
なぜ、トーマがあやまらなきゃいかんの?
でもきっと、常識のある人が大切な同性を好きになったらきっと、こう思うんだろうな、という気がする。
特に高校生なんて、制服も授業も学校も「男」と「女」でハッキリと分けられているのだから、その中で自分の想いを誰かに明かすなんて、とっても勇気がいることでしょう。
まして、「男の中の男」と言われていた男(トーマ)が、「優しいだけのぱっとしない男」太一のことが好きだなんて・・・でも、トーマにとっては太一がずっと大切で、それは友情を超えたものだったわけ。
でも、太一は彼女がいるように、ノーマルな男の子です。
トーマがそんなことを想っていたなんて露知らず(そりゃそうだよね)、太一もどうしたらいいかわからず、トーマの想いに気づかなかった自分にもショックを受けます。
あれだけ、校内の人気者で、主人公の太一が憧れるような存在だったトーマが、一転して好奇の目にさらされることになったキッカケは、マミのことを好きだった健助とトーマの乱闘騒ぎから事が大きくなったのです。
43話では、その真相が、当事者であるマミの口から語られます。
トーマがマミを選んでくれれば、マミを選ばなくてもマミ以上に魅力的な女性が好きだったら、健助も別にキレることなく、マミにアプローチし続けたでしょう。
でも、そうじゃなくて、マミが必死にアプローチしているのに、それを意にも介さず、男が好きだというトーマに、最高の女(マミ)よりも、さえない男(太一)を選ぶことに対して、健助の感情が爆発したのです。
それを単に「同性愛に理解がない男」として切り捨てるのは簡単ですが、そこまで深い考えではなく、単純に、自分にとって大切な存在(マミ)を軽んじられた、と直感的に感じたのだろうと思います(だから、反省して太一に電話しています)。
でも、トーマからすると、健助の「よりによって(なんで男と?)」という一言で、怒りの琴線に触れてしまって爆発して、乱闘が大きくなってしまった事実もありました。
トーマ自身が、「男が男を好きになる」ことを、心苦しく思っています(告白の後の「ごめんな」からも明らかです)。
自分が一番自分を責めているのに、それを他の人に、自分の気持ちを何も知らない人に「これが正解だ」と言われれば、それはトーマも自分の感情を抑えきれなくなって、キレます。
しかし健助も、ケンカを制止しようとするマミを、トーマが力尽くで払いのけて吹っ飛ばすという行為をしてしまったことで、怒りがさらにエスカレートしてしまいました。
健助の、至極まっとうな意見。
「男が女を殴っちゃいけない、それは男らしくない」
「男は女を守らなければいけない」
いわゆる「ジェンダーバイアス」と言われるものです。
でもそれは、トーマからすると、ある種の呪いでもありました。
男だの女だの、そういう枠組み(ジェンダーバイアス)のおかげで、自分がどれだけ苦しんできたか。そしてその孤独が、この冷たい目線を投げかける理由なのでしょう。
自分は男として産まれ、男らしく育ち、でも、男を好きになってしまった。
トーマの「男らしい男」というキャラ設定は、この十字架を背負わせるためのものですが、実際にこういう人が世の中にはきっとたくさんいるのでしょう。
昔に比べたら確かに、「理解」はされるようになりました。
でも、相変わらずテレビでは、「男を好きな男」はやっぱり笑いにしかならないし、女とちがって「雑に扱って良い」存在です(女芸人もですが)。
そして、東大では今も、「東大女子が入れないのに、他の大学※の女子は入れる東大サークル」があると言います。
(※他大学の子も入れるインターカレッジサークルという種類のサークルがある)
理由は色々あるのでしょうが、自分がその性別であることで抱える苦労、とくにマイノリティになればなるほど、理解されない想いが強い分、本人の悲しみは深いはずです。
男にとって「女とはかくあるべし」
女にとって「男とはかくあるべし」
それで傷つく人たちがいて、その中でもがく人たちがいる。そして、その人たちのことをどうしたらいいのかわからず苦しむ人がいる。
そんな、難しいテーマを、高校生たちの真剣な想いを通じて、青春としてそれを描いている『青のフラッグ』。結構深いです。
これから彼らがどう、救われ、成長していくのでしょうか?
現実にこういうケースの中には、おそらく自殺している人もきっといるでしょうが、なんとか、そうなりそうな人たちの救いにもなるような展開になってほしいと思います。